くさの頭の中

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伊藤計劃「ハーモニー」意思とユートピアがわからなくなった※後半ネタバレ有り

 伊藤計劃著「ハーモニー」を読んだ。伊藤計劃作品は虐殺器官を読んで、これが2作目。あと屍者の帝国積読してあります。

 

 

yoshi-yoshu.hatenablog.com

 

 

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:伊藤計劃
  • 発売日: 2014/08/08
  • メディア: 文庫
 

 

買ってしばらく経ってしまったけど、読めてよかったなぁ。帯に「百合はじめました。」って書いてあって、僕百合小説読んだことないから、どんなもんかいな〜と思ったけど、ほとんど百合要素はなかった気がする。なんか期待外れ←

 

伊藤氏の作品はこれが2作目だけど、人間の思考回路だとか、意思だとか、ディストピア、心のダークサイドが好きな人には合うと思う。僕みたくサイコパスからの伊藤計劃の人多いだろうから、サイコパス好きな人にめっちゃ合うと思う。サイコパスに比べて少しアカデミック、サイエンスの要素があるからそこだけ覚悟しとかないといけないけど。まあ、前知識はいらないから気軽に読んでみたらいいと思う。あ、あとグロ要素もあるからそこの体制ない人もダメかも。

伊藤氏の3部作は映画化されているので、それをみてみてもいいかもね。


「ハーモニー」劇場本予告

 

 

今回のテーマは「意思」と「ユートピアディストピア)」。なんか技術としては2030年までには少なくとも実現しそうにないけど、人間の生み出すどす黒い部分の社会の雰囲気だとかはこれからあり得そうだな〜って思った作品。この世界に近い状況になりうる気がしたな。相互監視社会。特に今はみんな引きこもって暇だからインターネッツ・ツイッタでネットパトロールに精を出す暇な輩がたくさんいますからね〜笑。僕はそれすらしてないもっと暇なゴミ人間ですが笑。

法律以上に社会的制裁とか、正義の棍棒を振り回すことの攻撃力が高い社会。そんな感じ。

まあ、チマチマ読んでたから記憶はあやふやなんだけどさ。

 

 

〜以下ネタバレ・考察っぽい何か〜

 

はじめに特徴的な文章スタイルで描かれている。まるでhtmlのタグのような表現がなされている。ニコニコ大百科のハーモニーに関するページを見てもらうのが早いだろう。

ハーモニー(小説)とは (ハーモニーイトウケイカクとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

こうやって感情とかリストアップ、思い出しを表現しているし、この小説の世界観ではこの方法でしか人間は感情をあらわせるようになってるし、それを信頼しきっているから、感情のモヤモヤ感がなくなってしまった世界なんだろうな〜

 

テーマの話

まずは意思の話から。人間の意思とは脳内の様々な報酬系が争った状態である。そして報酬系は未来になるにつれて、報酬が指数的に割引かれる報酬系であると。報酬系ってのはドーパミンとかあーいうやつです。

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縦軸が報酬=嬉しさの度合い

横軸が時間経過。大きいほど未来。

なので、現在に起こることほど、人間は優先してしまうのです。これはいわゆる行動経済学の現在(志向)バイアスです。よくあるたとえが

・今1万円もらう

・1週間後に1万100円もらう

となると、合理的に考えれば1週間で金利1%なんてめちゃくちゃ得なので、後者を選ぶのが良いはずです。しかし、非合理的に前者を選んでしまう人が多いのです。これが1週間ではなく、1年後になると、より前者を選ぶ人は増えます。

 

行動経済学で既に知ってたんだけど、指数的に割引かれるっていう表現が頭の中にスッと入ってきて、めっちゃ好きです。科学的に正しいのかどうかはわからないけど、ふに落ちる説明でした。印象的。

 

で、その意思とか意識が無くなったのが人類の到達点なのか。それは人類ではないプログラム通りの機械である。しかし、それを実は人類は望んでいるのかもしれない。そう考えると人類はなんで意思を身につけたのか。生存のために必要だったのか?ちなみに本作品は動物も本能だけでなく、意思があると描かれている。うーん、そもそも意思と本能って切り離すことができるのだろうか?最近は本能と理性の二元化ってほんまなんかな〜って思うのもあって、すっきりしないな。だって、本能も意思も生まれた時からプログラムされた通りに決定しているんだし、非合理的なという共通点があるはずなのに。

そういえば、意思って英語ではwillっていうじゃん。で、willって未来形にも使うじゃん。なんか意思=未来に自分がすることって表現カッコよくない?意思とは未来を切り開く力だ!って感じがする。どっかの名言でありそう笑。なかったら僕が作ったので、将来有名になったときに言いまくって意識高い系の人々に崇められるようになるわ笑

 

次にディストピアユートピアの話。本作品では”ユートピア”として描かれていた。人間の頭の中や体の健康状態を全て監視される社会が。

しかし、監視社会とは1984を筆頭とするディストピアと現在はされています。なのに、21世紀後半を舞台とした、つまり未来の私たちは、その監視社会をユートピアと認識し、ありがたがっているわけです。それがマジョリティーを占めるのです。ファーーーって感じですね。まあ半世紀もあれば半分の人類は入れ替わるわけだから、社会常識が変化することもあり得るかな。まあ、これは人類の何割かが死んだとんでもないパンデミックが起こった後の世界だから常識が一変することもあり得るのでしょう。なんかそう考えると今の情勢にぴったりな作品かもしれませんね。この騒動が起こった後、こんなふうに健康を第一とする社会が実現されるかもしれない。そう考えると、この作品を今読んでおいてよかったかな〜って思う。

 

戻って、ユートピアディストピアなんだけど、ユートピアディストピアってなんなのかわからなくなったな〜。人間は健康になりすぎたのかな。

なんかすっきりするような、モヤッとするような、そんな作品。読んだ人と議論したらスッキルするのかしら?また、思いついたら追記していこう…